羅針盤 from Father

words by T.M


 他の子供たちと同じように昆虫や恐竜が大好きだった。
苦手な科目が算数、好きな科目は社会科。とりわけ日本史に熱中していた。思えば、教壇の後ろに貼ってあった年表ばかりを眺めていたような気がする。漢字練習では、全く関係のない『蘇我入鹿』などを書き連ねていた。十数キロメートル離れた古墳群に行くときなどは、興奮して夜も寝られなかったことを記憶している。

 ある時、そんなことを父に話したのであろう・・・ 父は、当時住んでいた家の近くにも古墳があるのだということを教えてくれた。僕は父に、その古墳に連れって行ってくれるようせがんだ。東京で事業をしていた父は、年に数回しか帰ってこなかったからだった。後日父は、僕を古墳に連れて行くと言い、母と妹と犬を連れ立って出かけたのであった。当時住んでいた家は、山の中腹に立地した集落の一端であった。ハイキングと言うよりは、ほとんど登山に近いような道のりだったことを記憶している。ずいぶんと歩いた、そして登った。しかし、父の記憶も定かではなかったらしく、古墳を目の当たりにすることは叶わなかった。

 が、

普段から父と接することの少なかった僕は、古墳にたどり着けなかったことに対する落胆は微塵もなく、単なるハイキングを楽しんだ。もっとも、楽しんだのは僕と犬だったかもしれない。また父も、子供らと出かける口実に、古墳があるなどと適当なことを言ったのだろうと、長い間そう思っていた。